『ガーネットオペラ』
2009年06月13日01:16 H21.5.24(日)17:30
於:鹿沼市民文化センター 小ホール
遊幻空間10周年記念の公演です。いつもながら、非常に錬度の高い舞台でした。ただ、以下に書くような意味で少々惜しい舞台でもあったように思います。そのことについて書く前に、まずは、ちょっと離れたことから書き始めます。
少し前に『さくらん』という映画がありました。カメラマンとして有名な蜷川実花さんが監督をしたと話題の作品。カメラマンだけあって、1枚絵としては実にすばらしい。豪華絢爛、色合い、アングルどれをとっても絵になっています。しかし、映画ではありませんでした。吉原と言えば、もっとも花魁の見せどころ、華ともいうべき花魁道中。闇の中に浮かび上がる道中と言う画像は確かに新鮮だったのですが、いかんせん、動いている映像に全く魅力がなかったのです。
花魁道中の白眉はあの、無理な体勢と衣装で独特の歩き方をするところ。あれこそが花魁の意気を見せる部分なのにそこがなかったのです。ほかの部分も動く場面になると、妙に当たり前すぎる映像になってしまっていました。一部、ビデオ・クリップとしては面白いんだけどね。という部分もありましたが、やはり動く映像のダイナミズムで物語を語る映画という表現方法の基準に至っていなかったので、私は評価することができませんでした。
今回の舞台を見ながら上のようなことを思い出していました。
『ガーネットオペラ』というのは劇団アンドエンドレス主宰西田大輔作の戦国時代を扱った作品。織田信長が仕掛けた天下獲りのゲームとして羽柴秀吉や明智光秀そのほかの有名な武将たちの繰り広げる戦いと葛藤の物語です。もともとは3時間を超え、登場人物も非常に多い舞台を2時間に短縮し、限られた人数で描きだすというのは非常に大変な作業だったと思います。
今回の舞台で印象深かったのが、やはり舞台上に作り上げられた巨大な山形の木で造られた構築物でしょう。構造をカバーすることなくそのまま残し、舞台の中央を占めるこのセットは、もう一つの舞台としての役割も果たし、あるいは天守閣の頂上となり、作品のテーマを象徴するものとして存在していました。この造形には非常に、演出の強いこだわりを感じました。だからこそ、本当に惜しいと思ったのです。
このセットは舞台を上と下に分ける機能を果たしていましたが、上と下とを一体化した空間を作り上げていなかったことがもったいない。構造の都合もあるのでしょうが、『池田屋の階段落ち』のような高低差を生かした迫力ある見せ場がほしかった。いや、プロのスタントマンではないですので、そのままは無理でしょうね。むしろ、上下をつなぐ動線をもっと生かしたシーンが見たかったと言い換えた方がいいかもしれません。また、舞台中央の後ろ半分をほぼ舞台幅の3分の1、このセットが占めたためにもともと奥行きのあまりない舞台をさらに狭めてしまっていたように思います。
そのために役者が通常演じるのは舞台の客席側半分だけになり、必然的に横の入りはけが強調される展開になってしまったようです。せっかく立体感があるべき舞台全体を使った芝居ができず、非常に表面的な絵面、つまりは映像的と言えるのかもしれませんが、そういうシーンが続いていく感じになっていました。また、暗転の多さもあったのかもしれませんが、この一つ一つのシーンがスムースにつながって、うねりながらダイナミズムを持って物語を展開していく気持ちのよさにつながって行かなかったようにも思います。
あるいはこれは、スケジュールの都合からくる割り稽古の弊害なのかも知れません。一つ一つのシーンの役者の芝居は非常に錬度も高く、集中力があり、適切なおかつ個性も力も十分、引きつけられるものばかりだでした。シーン自体は非常にレベルの高いものに仕上がっているのに、全体を見ると大河のうねりが感じられず、観客としてはうまく流れに乗せて行ってもらえなかったように感じました。
舞台の使い方で印象に残ったのは、光秀が下手後ろから出てきて、前方で展開されているやり取りをうかがうというシーンなのですが、上に書いた構築物の後に隠れるような立ち位置だったためか、出トチのようにも見え、悪い意味で目立ってしまっていたように感じたことです。
確かにあの構築物は、1枚絵とした場合、あのサイズでなければ絵にはなりません。しかし、芝居とはやはり役者が効果的に演じて何ぼの表現方法だということなのです。上の光秀の場合は結果的に死んだ空間になっていた構築物の後方で演じたから、役者の芝居そのものが生きてこなかったのではないでしょうか。また上下が完全に分断されていたこと。しゃべったりはしていても、動きが伴っていないので舞台が動いたものにならなかったともいえるかも知れません。
これについては、栃木県人の気質もあるのかもしれませんが、思い切ったぶつかりあいがほしいところで、行き切っていない中途半端感があるシーンがいくつか見られたように思います。ぶつかるなら、相手が吹っ飛ぶくらいの勢いのある方が映えるのですが。とにかくそういう部分があったために、質は非常に高いし、物語も物語なのにはじけた感じが弱いようにも思えました。
前方での殺陣なのですが、東京の専門家に習いに行ったというだけあって実に様になっていたのですが、これまたあの構築物が印象的すぎて、本当の意味での迫力が出てこない(客席前方で観ていた場合は違うと思いますが)。逆に、私の感覚では戦いあう小さな人間を描くにはあの構築物はまだ小さいのです。でき得れば、もっとあの厚みを減らし、大きさはもっと大きくてもよい。別に一番上に立つ必要はない。効率的に表現できる象徴的な高さというものはあるように思うのですが。
ただ、先に書いたように、演技の部分では非常にいいものがありました。なかでもほとんど若手ばかりの舞台の中で、一人年齢相応以上の自然体の渋さを発揮していた謙信役のRUIさん。最初はやや不安があったのですが、後半に向かって勝頼と一体化したかのような迫力が出てきた大塚さん、そして全身を使って緩急自在に頑張っていた藤吉郎役のゆうやさんが特に印象に残りました。
しかし、いいですね。アマチュア劇団で10年間継続して一定以上のレベルの作品を上演し続けるということは本当に難しいことだと思います。それをなしとげてきた遊幻空間さんにはこれからもさらに頑張って行ってほしいと思っていますが、その10周年記念公演に、(有)DDT、劇賊スクリュー、劇団today、劇団バッカスそのほかの劇団から様々な人が参加してこういう大きな作品を上演できたということが一番うれしいことかもしれません。こういう流れがもっとできてきて、県内の演劇が盛んになってほしいと本当に思っています。

